2025年10月下旬、9月に参加した涸沢カールのツアーでお世話になったガイドのエミさんからお誘いをいただき、「裏上高地」とも呼ばれる湯俣山荘を目指して、ソロ登山に挑戦しました。
近場の低山には一人で登ることが多いのですが、遠方の山の場合は安全面を考慮し、これまでは旅行会社のツアーを利用してきました。今回が、初めて個人で長野県まで足を延ばしてのソロ登山です。ちょっとした冒険気分に、出発前からドキドキしていました。
今回のルート
今回は福岡空港から松本空港までFDA(フジドリームエアライン)を利用し、松本空港から信濃大町駅まではシャトルバスで移動しました。信濃大町駅からは、往路に裏銀座登山バスが運行されていたため、終点の七倉山荘まで乗車しました。
初日は七倉山荘に一泊。2日目は、七倉山荘から高瀬ダムまでタクシーで移動し、そこからハイキングを開始しました。約4時間歩き、目的地である湯俣山荘に到着しました。
3日目は湯俣山荘周辺を散策した後、9時頃に山荘を出発。七倉山荘で昼食と休憩をとり、タクシーで信濃大町駅へ移動しました。その後シャトルバスで松本空港へ向かい、FDAで福岡空港へ戻る行程でした。
1日目 七倉山荘で温泉独り占め
10月下旬といえば紅葉の行楽シーズン。目的地の山もさぞ賑わっているだろうと予想しながら、信濃大町駅で裏銀座登山バスを待ちました。
ところが、バスの発車時刻になっても乗客は私を含めてわずか3人。同乗した老夫婦は、高瀬ダムを見学する日帰りトレッキングの予定とのことでした。マイクロバスに揺られること約50分、終点の七倉山荘に到着です。
七倉山荘でチェックインの手続きをすると、「本日の宿泊はお一人だけです」とのこと。土曜日なのに? 信じられませんが、これはラッキーかもしれません。広い相部屋を一人で使い、温泉も独り占め。すき焼きにイワナの塩焼きまで付いた豪華な夕食をいただき、早めに就寝しました。
2日目 正真正銘のソロ登山
朝から雨がしとしとと降っています。朝一番の裏銀座登山バスが到着する時刻まで待ってみましたが、私以外に登山者の姿はありません。連日、東北地方での熊の出没がニュースになっている時期。ひとりでの山歩きは心細さもありましたが、タクシーで高瀬ダムへ移動し、トレッキングを開始しました。


高瀬ダムに流れ込む湯俣川は、上流で湧く温泉水を含んでおり、ダム湖はエメラルドグリーンで白濁した水をたたえています。水は酸性で、硫黄の香りが漂います。こうした環境でも、ウグイなど酸性に強い淡水魚が生息しています。


最初の1時間半は誰一人として会うことなく、ダム湖沿いの道を黙々と歩きました。やがて下山する人とすれ違うようになり、正午ごろ湯俣山荘に到着。山荘では、9月にお世話になったガイドのエミさんや、前日に宿泊していたお客さんが温かく迎えてくれました。

そして、到着してすぐに山荘のマスターから告げられた言葉が、「本日の宿泊はお一人です。」
まさかの2日連続ソロ宿泊。私が泊まった前日と翌日は満室だったそうで、なんとも不思議な巡り合わせです。
スタッフの方々とお話ししながら、山荘とは思えないほど手の込んだ夕食をいただき、ゆったりとした時間を過ごしました。

湯俣山荘は、リノベーションを経て約40年ぶりに再オープンした山荘です。館内にはバーカウンターもあり、木の香りが心地よいおしゃれな内装。限定ビールも用意されていて、お酒好きにはたまらない空間です。客室は、プライバシーに配慮されたドミトリー形式になっています。

温水シャワーもありますが、下水設備がないため、歯磨き粉・石鹸・シャンプーなどは使用できません。その夜は、硫黄の香りと川の音に包まれながら、ぐっすりと眠りにつきました。
3日目 またもや偶然の出会い!
朝6時にお粥の朝食をいただいた後、スタッフの案内で1時間ほど山荘周辺を散策しました。湯俣山荘は「伊藤新道」という登山ルートの起点で、近くには「噴湯丘(ふんとうきゅう)」という天然記念物があります。

噴湯丘とは、炭酸カルシウムを主成分とする温泉沈殿物が河床に堆積し、小さな火山のような形になったものです。その中央の湧き口には、白い小豆粒ほどの霰石(あられいし)と呼ばれる「球状石灰石(球状方解石)」が形成されるという、非常に珍しい現象が見られます。この噴湯丘は、大正11年に天然記念物に指定されました。

前日の雨で湯俣川が増水しており、川を渡って間近で見ることは叶いませんでしたが、温泉の湯気の向こうに白いドーム状の噴湯丘を望むことができました。
散策を終えて山荘に戻り、名物の「噴湯丘ブラマンジェ」をいただきます。噴湯丘の形をしたブラマンジェを、サーブ直前にりんごチップでスモークし、ガラスカバーを外すと、まるで温泉の湯気のように煙が立ちのぼる演出。見た目も香りも楽しめる一品でした。
コーヒーとともにデザートを味わい、荷物をまとめて9時頃に山荘を出発。帰りも当然ソロ山行です。月曜日の午前中ということもあり、出勤中の東京電力の社員の方とすれ違いました。また、エミさん主催のツアーの一団ともすれ違いながら、高瀬ダムへ到着しました。
高瀬ダムで待機していたタクシーに乗り込むと、そこには「伝説のタクシードライバー・幸子さん」が。美川憲一さんを乗せて高瀬ダムを案内したことで知られる、地元の有名人です。社長自ら運転するタクシーで、幸子さんと楽しくお話ししながら七倉山荘まで下山しました。(しかもタクシー代は割引!)
七倉山荘で山菜そばをいただき、温泉に入ってから信濃大町駅まで再びタクシー移動。裏銀座登山バスは前日で運行終了だったためタクシーを利用しましたが、次回はバスの運行期間中に下山できるよう計画したいと思います。
今回のソロ登山は、コース自体の難易度は高くなく、登山経験が少ない人でも歩けるものでした。しかし、すべての計画を自分で立て、予約をし、偶然とはいえ完全にソロで登山道を往復するというのは、私にとって大きな冒険でした。やり遂げた今、充実感でいっぱいです。
さらに山荘のスタッフの方やタクシードライバーの方など、個人旅行ならではの密度の高い触れ合いがありました。(偶然ソロだったこともありますが)
本当に旅するっていいですね~
最後まで読んでいただきありがとうございました。

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